大判例

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高松高等裁判所 昭和59年(う)186号 判決

所論は「被告人は恐喝罪の容疑で徳島県脇町警察署に緊急逮捕されたうえ,本件覚せい剤事犯の取調べを受け起訴されて,有罪の原判決を受けたものであるが,その捜査経過をみるに,同署の捜査官は,被告人ほか2名(原審相被告人下浦稔,同木村鉄男)が当時同署管内で被害の届出があった3人組の強盗事件の犯人であるとして,同署に任意同行のうえ逮捕し,被告人らを取調べたものの,単にその人数が同じというだけで,その嫌疑が十分ではなかったため,やむなく,被告人らの些細な飲食代金の踏み倒しが恐喝罪にあたるとして,強引に被告人らを緊急逮捕したもので,しかも,その際被告人は恐喝罪で逮捕する旨を全く告げられなかった。ところが,右の強盗事件がまもなく届出人の狂言によるものと判明するや,同署の捜査官は今度は被告人の前科を調べ,被告人に覚せい剤事犯の嫌疑をかけて,執拗に被告人に尿の提出を迫り,右逮捕の翌日には,強制採尿の令状も出てないのに,身体検査ができるようになっているから,医師を連れて来て強引に押さえつけてでも採尿する旨を述べて,被告人を威圧したため,被告人としても,やむなく尿の提出に応じたものである。原審で取調べられた被告人関係の証拠は,こうした一連の違法な捜査により収集されたものであるのに,これらを排除することなく原判決が本件断罪の証拠としたのは,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。」というのである。

そこで原審記録を精査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討するに,所論緊急逮捕は,被告人が前記2名と共謀のうえ,昭和59年2月21日午後1時15分ころ,徳島県美馬郡美馬町内の喫茶店で飲食後,同店主を脅迫して,その飲食代金1,400円の請求を断念させて支払を免れ,財産上不法の利益を得たという事実を恐喝の被疑事実であるとしてなされたもので,これについては,その直後に右店主より脇町署に被害の申告がなされ,同署員が犯人を探索中であったが,同日午後2時30分ころ,被告人ら3名が同郡脇町内の喫茶店にいるのを発見し職務質問したところ,被告人らも右飲食代金の不払いを認めたので同署に任意同行し,捜査官において,更にその店主や被告人らを取調べた結果,被告人が右恐喝の罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があり逮捕の必要性もある等の緊急逮捕の要件を備えていると判断して,同日午後9時に被告人を緊急逮捕し,被告人から被疑事実についての弁解を聴く等の所定の手続をとったうえ,管轄裁判所の裁判官に逮捕状を請求し,翌22日その逮捕状が発付されたことが明らかである。しかして,その逮捕状請求の際の疎明資料をみても,恐喝としての被疑事実で身柄を拘束する理由や必要性も備わっているとした捜査官の右判断に誤りがあるとは認められないし,捜査官において被告人らが所論強盗事件の犯人ではないかと疑い,これにつき被告人から事情を聴いたという事実があったとしても(なお,被告人が右強盗事件で逮捕されたという事実はない),当該恐喝事件で被告人を逮捕したこと及びその手続自体に所論のいうような違法があるものではない。そして,右のように被告人を逮捕したところ,その腕に注射痕が認められるなど,覚せい剤使用の疑いが持たれたので,捜査官において,被告人に尿を提出するよう再三求めたが,被告人がこれに応じないため,右22日に管轄裁判所の裁判官から強制採尿のための捜索差押許可状の発付を得,その令状が発付されたことや,これによる採尿の方法等も被告人に告げて更に説得を重ねた結果,被告人もこれに応じ,自らその尿を提出するに至ったもので,その採尿手続はあくまで被告人の任意提出に基づくものということができ,それに至る過程に所論のような違法があったものとは認められないし,その他の覚せい剤取締法違反関係の取調が前記恐喝被疑事実による身柄拘束下になされたものであっても,これを違法捜査として,これによって得られた証拠の証拠能力を否定すべきものであるとは認められない。以上を要するに,本件覚せい剤事犯の捜査過程に違法はないから,その違法を前提に訴訟手続の法令違反に言及する論旨は採用できない。

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